追悼:アルトン・エリス

ocha-uke2008-10-19

僕が初めてそのレコードにに出会ったのは西暦が2000年代に変わる少し前だったと思う。駅前のレコード店のレゲエ・コーナーを漁っていた僕の目に飛び込んできた粗悪なゼロックス・コピーのジャケット。ジャマイカ盤を目にするのは当時まだ目新しかった。
その頃の僕はジャマイカ音楽と言えばボブ・マーリージミー・クリフ等を聴いていた程度だったが、その日手に取ったレコードはそれまで目にしたどんなレコードとも違った、プリミティブな輝きを放っていた。白地に黒、赤の2色の印刷で「ALTON ELLIS/SINGS ROCK AND SOUL」とあり、スーツ姿の細身の黒人が写っている。それがどんな音楽か、レゲエかどうかも分からぬまま買って帰った。それが僕とロックステディ、及びアルトン・エリスとの出会いだった。
家に帰って早速レコードに針を落とした途端、僕は100%ノックアウトされてしまった。75%とか90%くらいのノックアウトなら珍しくない(?)けど、それは正真正銘、100%の体験だった。
ざっくりしたローファイなサウンドに乗ってアルトンのボーカルはどこまでも伸びやか、ソウルフル。そしてステディに聴く者をロックする。アルバムの大半はまさに欧米のロック/ソウルのカバーだが、「LET HIM TRY」や「MAD MAD」等のジャマイカン・アンセムと言うべきオリジナルナンバーが含まれていることからして彼の代表作、またジャマイカの名門レーベル「STUDIO 1」屈指の名盤と言っていいと思う。
このアルバムとの出会いは、僕のちっぽけな人生を大きく変えた。このアルバムとの出会いがなければ「ロッキングタイム」も現在の自分もない。
その後、幸運にも彼のステージに接する機会に何回か恵まれた。若い頃ボクサーだったというアルトンはちょっとした体の動きにもキレがあり、目をつぶり時にひざまずいて熱唱する姿には本当に感動した。
エイベックスから出ていたジャスタ・マガジン05、ロックステディ特集号(2001、絶版)にはアルトンのインタビューが載っており、インタビュアーはなんとこの僕。以下はその抜粋(文中敬称略)。


今野 あなたのステージングには目も耳も釘付けになってしまって…まるでマジックのようだったんですが、そのマジックのかけ方を僕にこっそり教えてくれませんか。
アルトン あはは。それは秘密だよ。だけど、やはりそれは才能と努力のコンビネーションなんだ。


貴方は永遠に僕のヒーローです。心よりご冥福をお祈りします。 2008年 10月 今野英明