行きつけのカフェー

ocha-uke2008-12-29

少し前の事、国立駅前の喫茶店邪宗門」がその長い歴史に幕を下ろした。何せ多くのファンに愛された有名店だったので、僕などが語れることは少ないが、自分の一部が欠けてしまったような気分でいる。何よりついこの間、僕らの席にやってきて前触れもなく得意の手品を披露してくれた、門主の名和さんがいなくなってしまったということがうまく信じられない。
肩まで届く髪をオレンジに染め、真っ赤なキャップにハイテクスニーカーでキメてパイプをくゆらす名和さんは街の有名人。船乗り時代に世界中で集めた骨董品で埋め尽くされた店は戦後間もない頃から、本格的なドリップコーヒーとシャンソンの流れる店として多くの人に愛された。長い船旅のあいだ覚えた手品は、暖簾分けした全国各地の店主に引き継がれているという。
先の大戦で多くの戦友を失い「もし生きて帰ったら人の喜ぶ仕事をしたい」という志を立てた(常時店に置いてあった一代記による)門主の願いは十全に叶った、と多くのファンが感じていることだろう。
いつも素寒貧の画学生時代、この店で一杯のコーヒーを喫するのは贅沢なジカンだった。カチワリ氷に熱いエスプレッソを注ぐ式のアイスコーヒーを初めて飲んだときにはその美味しさにビックリした。定番は名物のウィンナコーヒー。得意の国立案内をするときには必ずと言っていいほど立ち寄った。
気がつけば近所に新しい店が増えたし、長い付き合いになりそうな店、人たちもちらほら。だから仕方のないことと知ってはいるけど、たまらなく寂しい。ごきげんよう、名和さん。メルシィ、ボクー。