魔法を信じるかい?

以前住んでいた木造アパートの一室で、夜中に電話が鳴ったかと思うと大量のFAXが吐き出されてきたのには驚いた。そこにはなにやら「詩」のようなものが恐ろしく汚い字で書かれており、さらに驚いたことには最後に「メロディを付けて送り返せ」といった意味のことが書かれてある。
僕はその常軌を逸した振る舞いにとまどいつつも、断れば何をされるか判らないと思い泣く泣くその「詩」にテキトーなメロディを付け、テープに録音して送り返したのだったが、しばらくしたらそんなことがあったのも忘れていた。


その奇態なFAXの送り主の名を「山川のりを」という。カリプソやリンガラを日本語で展開した粋なバンド「ディープ&バイツ」や「アイスクリームマン」、清志郎さんとの「2、3s」などを経て、現在は人呼んで「ギターパンダ」として活動しているあのお方である。
その後、彼の手によって完成したその「曲」がCD化されたことは風の噂(なんでやねん!)に聞いていたし、地方巡業などで一緒になった際「あのCDちょうだいよ」「ウン」などという会話がなされた後でも一向にCDは送られては来なかった。忙しかったんだと思う。お互い、マメに連絡取り合うようなタイプじゃないしね。


それからあっという間に◯年。


ついにその日はやってきた。こないだ下北沢を歩いていたら、あるライブハウスの看板に彼の名前が。残念ながらライブには間に合わなかったが、打ち上げの席を覗くと笑顔で迎えてくれた。カンパイしてお互いの近況などを言葉少なに語り合った後、「そういや、あの曲…」と切り出したら彼は「ああ、いまそこに(CD)あるからお店でかけてもらおう」と言う。
それで聴いたわけです、その曲を。音量大で。アルバム「I Love ギターパンダ」収録の「恋人のメロディ」。


僕はあきれてしまった。なんなんだ、この素晴しさは。ジョージハリスンか?これがあのFAX事件の顛末?


僕がメロディを付けたのはいわゆる「サビ(Bメロ)」と「Aメロ」の部分であり、アレンジの簡単なアイデア(ジョージ的ベースライン)もフォークギターで録音しておいたように記憶している。出来上がった曲には彼の手になる第3の展開「Cメロ」的なものが付け加えられており、アレンジは完全にリバプール方面。曲の終盤でアップテンポになり女性コーラスが入ってくるあたり、「魔法」としか思えない。聞けば、彼のファンはみんなこの曲が大好きだとか。もっと早く聴きたかったな…