ふるさと

「ご出身は?」と尋ねられるといつも答えに窮してしまう。ものごころついてから十五まで愛知県の春日井市にいたので「愛知です」と答えても良さそうなものだけど、両親は秋田の出身だし、僕自身は最近まで出身地(愛知)、出生地(秋田)、本籍地(東京)、家族のいるところ(宮城)、現住所がすべてバラバラ。いま住んでる国立(くにたち、と読みます)に一番長くいるけど「ふるさと」って感じじゃない。


以前テレビで、三宅島の噴火により罹災して東京西部(ウチから近い)に疎開してる人たちのドキュメンタリーを観た。不慣れな借り住まい、子供達の就学、いつ帰島できるのか等、問題山積。しかし僕が驚いたのは島で生まれ育った年配の人たちの「波の音がないと寂しくて眠れない」という深刻な訴えだった。現在は小康状態を保ち、石原都知事の肝いりでバイクレースが行われたりもしてるようだけど、噴火の際サイレンが鳴ると即時帰宅し、防毒ガスマスクを付けなければならない生活はいかにも不便だ。「そんなに危険で、不便なところなら引っ越せばいいのに」と思ってしまうのは自分が今まで一度もホームシックとやらにかかったことがない根無し草だからか。


僕の育った愛知県春日井市高蔵寺ニュータウンは高度経済成長期にできた全国でも屈指の団地街で、見渡す限り団地の棟が続いていた。今なら考えられない、エレベーターもない狭くて不便な五階建ての団地街は多くが高齢者ばかりとなり、一部ではスラム化してると聞く。それらの団地が新しい建物に変わっても(実際変わってるらしい)僕はさほどの痛痒も感じない。団地の一室で、テレビにラジカセを押し付けて録音したベストテンやゴダイゴオフコースRCサクセションYMOなんかを聴きながら僕はいつも「ここではないどこか」に憧れていた。


僕は和食が好きだけど、ギリシャやイタリア、ポルトガルなら相当長い間「和食なし」で暮らせると思う。パンとコーヒー、オリーブオイル、ワイン大好き。中華なら台湾が安くて旨いらしいし、キューバやジャマイカもいいなぁ。ハワイは大好きだけどアメリカ料理はちょっと…


僕の「ふるさと」はどこなんだろう。「ふるさと」ってそんなにいいものなんだろうか。